COLUMN

18歳からの漫画の描き方

vol.31

自分が人生で感じた事をテーマにし、わかりやすく伝える

私の教え子で、少年漫画でデビューした生徒たちは、たいていの場合テーマ選びが上手でした。例えば、「ジャンプネクスト」2014年VOL6でデビューした谷園とものぶくんは、読み切り作品「ゾネス先生ブチ殺すっ!!」で、「生きるって事は 戦うって事だ」をテーマにしています。谷園くんに直接聴いたので間違いないのですが、このテーマは谷園くん自身が今の日本の教育を見ていて一番強く感じたことだそうです。つまり彼は、自分自身がジャンプレーベルで掲載という大変激しい競争を勝ち抜いてデビューしようとしているのに、順位を付けたり競争をさせたりをしない今の日本の教育を見て大きな違和感を感じたそうです。その違和感が「生きるって事は 戦うって事だ」というわかりやすいテーマになって作品で強調されます。
谷園くんの創作方法は大変理に適っていて、まず、自分が日常生活で感じた事、思った事をテーマにし、そのテーマを肯定するキャラクターと反対するキャラクターを作り、その両者を対立させる事でテーマを顕在化していく、という方法です。
これだと、テーマからブレずに作品を作る事ができ、作者が伝えたい事はしっかりと伝わる漫画になります。
ジャンプで2年間修業を積んだ彼の実感では、ジャンプでは少しでもわかりづらいところ、共感できないところがあると、まずネームは通らない。ので、とても丁寧にわかりやすく、テーマを顕在化していく事が「最も大事な事」だそうです。

ドラマの面白さは3人めからのキャラクターが行う

さて、こうやってテーマをベタではない部分に設定し、それを作者の実感と共に深掘りしたところで、次に私たちがするべきことは何でしょうか? それは、そのドラマをエンターテイメントして読者に面白く読んでもらう工夫です。
テーマというのはたいていの場合は正論ですし、それ自体は納得できてもエンターテイメントしてみたら時に説教臭くなってしまいがちです。読者にそれを楽しく納得していただくためには、主人公とヒロイン、主人公と相棒の会話はもちろんですが、3体めのキャラクターをどうレイアウトし、どのように主人公たちに絡ませるかが大切になってきます。

これは、長編漫画をイメージすると大変理解しやすいです。例えば、「黒子のバスケ」では、この物語の主人公は黒子テツヤと火神大我のコンビですが、1巻の第3話には、早くもこの2人の価値を高める役割りとして黄瀬涼太が登場します。黄瀬はバスケットの才能もそうですが、大変なイケメンで女子のファンが沢山います。そんな黄瀬が、黒子に「中学の時 一番仲良かったしね!」「海常おいでよ また一緒にバスケやろう」と言った時、読者は「この黒子という主人公は客観的にみて価値が高いキャラクターなのだ」ということに気づきます。
同じようなことは「俺物語!!」でも言えます。「俺物語!!」のメインは、主人公剛田猛男とヒロイン大和凜子とのラブロマンスなのですが、ほとんどのページにおいて、サブキャラクターである砂川誠が登場します。
砂川は、少女マンガの定番的ヒーローの容姿(華奢で髪の毛サラサラのイケメン)であり、一般的な少女マンガであれば、砂川と大和のラブロマンスが展開されそうですが、作品はあくまで猛男と大和の恋に終始します。しかし、この作品において、もしも登場キャラクターが猛男と大和だけだったら「俺物語!!」はあそこまで面白い・売れるマンガになっていなかったと思います。
「俺物語!!」第1話で、猛男は砂川を「砂川は女子に大人気だ」「みんな砂川を好きになる」と紹介します。そんな女子に大人気で、「砂川くんてクールだよね」「笑ったカオ見たことなーい 見てみたいよね~」と言われる砂川が、親友である猛男の前でだけは、無邪気な笑顔を浮かべ、猛男は「女子よ (砂川は)笑ったらこんなカオだ」と独白します。そんな女子に大人気の砂川に信頼され、好かれる主人公猛男は、そのことによってキャラクターの価値を高めています(猛男は砂川だけではなく、男子後輩や子供たちにも大人気ですが)。また、ヒロインの大和も、普通の女子は砂川に恋するところを、容姿が少女マンガ的ではない猛男を好きになることで、キャラクターの価値を高めています。
このような例はこの2作に留まらず、「NARUTO」であっても「ワンピース」であっても「NANA」であっても同じことが言えます。

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