COLUMN

18歳からの漫画の描き方

vol.30

みんながすでに知っているテーマをそのまま描くと、ベタになる

例えば、以前にある生徒さんは「努力は大事だ」というテーマを、32ページの少年漫画で描いていました。
ストーリーは、真面目で努力型の陸上部の主人公が、理由のわからないスランプに陥り、タイムが伸びずに悩んでいたところが、先輩に励まされて努力を積み重ね、スランプを脱し、自己ベストのタイムを出す、というものでした。
32ページですから、かなりの労力をかけて描くのですが、残念ながら「努力が大事だ」ということは、この2000年代にその作者がわざわざ32ページの漫画にしなくても、既に世の中の多くの人々が知っていることだ、と私は思いました。持ち込みの結果も、あまり芳しくありませんでした。
これは私が漫画教育に携わって1年めに受け持った生徒さんだったので、その時はお話を一緒にまとめることしかできなかったのですが、今だったこう言います。「もっと掘り下げて」と。
みなさんもそう思いませんか? 今の10代・20代の日本人は、ほとんどみなさん「努力は大切だ」ということを知っています。
知っていますけど、「努力するのってかっこ悪くない?」や「ああいう熱いの苦手」や「かったるいよね」みたいな、ネガティブな感情が後ろにつくのではないでしょうか?

そう考えた時、そういう読者の気持ちを読み取って、「努力ってめんどくさい・かったるい・熱くて苦手だよね」。「けど、そうは言っても、こういうシチュエーションになったら、やっぱり努力することって大切じゃない?」とプレゼンテーションをする必要があります。

そこで読者が「やっぱり努力は大切だ!!」と思ってくれたらみなさんの勝ち。そこで読者が「知ってるよそんなこと。けど、めんどくさいもん努力なんて」と思ったらみなさんの負けです。

と、「努力は大切だ」という前提でこの文章を書いていますが、みなさんが本心から、あるいは人生の生々しい経験として「努力なんて必要ない」という考えであれば、それをテーマにして作品が描けます。これも、読者が共感してくれたらみなさんの勝ち。共感してくれなかったらみなさんの負けです。

ただ、総じて、みんなが知っているテーマを40ページ未満のマンガでプレゼンするのは大変難しいです。だって、「努力は大切だ」というテーマの面白い作品が読みたかったら、ちばあきおさんの「キャプテン」を読んだ方が、絶対に面白いし、納得できますから。

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