COLUMN

18歳からの漫画の描き方

vol.19

自分ぶしをさく裂させよう

私は「自分ぶし」と呼んでいます。例えば、私に「ぶし」があるとしたら「田中ぶし」です。プロの売れている漫画家さんには必ずこの「ぶし」があって、例えば荒木飛呂彦さんだったら「荒木ぶし」があるし、鳥山明さんには「鳥山ぶし」があるし、矢沢あいさんには「矢沢ぶし」があります。作者の名前を見なくても、セリフの一節やコマ割りの仕方を見るだけで個性がにじみ出ている漫画家さんのその漫画家さんたる由縁です。きっとみなさんの好きな漫画家さんにも、その漫画家さんならではの「ぶし」があり、みなさんはその「ぶし」が好きだからその漫画家さんのファンなのだし、わざわざお金を出してその漫画家さんのコミックスを買い揃えるのも、「ぶし」が好きだからです。
私たちが、いきなり8~32ページぐらいの投稿作で自分ぶしをさく裂させるのは、かなり難しいです。よほど秀逸な企画で、イントロが奇抜かつ自分らしく、中盤で伏線や小ネタ、何気ないかっこよいシーンとかをブチ込みつつ自分の世界に読者を引きずり込まないと(私たち無名の漫画家・漫画家志望者がファンを獲得するのは、文字通り読者を自分の世界に引きずり込む必要があります)「自分ぶし炸裂!」とはなりません。
以前、とても有名な少年漫画家の先生とお話をする機会がありました。私どもが8ページ漫画を作っていると聴いて、その先生は「君たち、本当に難しいことをしているね」と笑いました。もう何十年も週刊連載を続けている先生なので、8ページの原稿を上げるのが難しいのではありません。たった8ページの中に、その先生だったらその先生のネームブランドが示せる、「ぶし」が示せるアイデアと構成力とキャラクター性を盛り込むことが「難しい」と仰ったのだと思います。
売れている、ファンが多いプロになると、全てのパラメーターが5や6点の漫画が作れます。だからファンはよりファンになるし、コミックスが売れます。
実際に荒木飛呂彦さんの短編漫画など、もうどこを切っても荒木ぶしがさく裂しているし、16ページの漫画だったら、15ページの主人公のセリフが最高に引き立つように全てが計算されて作られていて、そういうのを読むと、私たちは「すげぇ!」となります。

先ほど言ったように、私たちはいきなりそのような売れっ子プロ漫画家さんのような作品は描けませんが、どこか1カ所だけ、「これ、もしかしたら磨けば荒木飛呂彦になるかも」と編集者・読者に思わせる何かを見つけ、描くべきです。

会話文の練習などいかがですか?

さて、それでは、持ち込み先で編集者を魅了する、5点満点中6点の「何か」を私たちが探していくとして、どういうところから手を付ければ良いのでしょうか? 絵の練習から入る方もいると思います。キャラ表を作る方もいると思います。いきなりプロットやネームを何となく描きだす方もいると思います。どれも意味のあることです。そこから素晴らしいものが生まれる可能性を私は否定しません。ただ、そういうものはほとんど全ての漫画家志望者がやっていることで、そういうみんながやっていることで明らかに頭1つ抜け出すのはなかなかに難しいことです。
そこで提案したいのは、会話文やモノローグの練習をして、その力を上げ、原稿にぶつけるというのはいかがでしょうか?
このコラムを読んでくださっている方の中で、普段会話文の練習をしている方はいるでしょうか? キャラクターのモノローグを練習している、書き溜めている方はいるでしょうか? おそらく、いないのではないかと思います。
普段、私たちは生活の中で会話をするので、わざわざ練習する必要がないからでしょうか? しかし、日常生活の会話や心の中で思うことと、創作、漫画作品の中のキャラ同士のかけあい、モノローグは明らかに違いますし、そこで個性が出る場合がとても多いです。そういう練習をしてみるのはどうでしょうか?
以前、私の教え子で、持ち込む先々でびっくりするぐらい評価の高い生徒さんがいました(私たちはそういう原稿を「モテ原」と呼んでいます)。その生徒さんは元々小説や詩を読んだり書いたりするのも好きだったせいもあって、日々つれづれに思うことを一行詩にして溜めておく習慣がありました。なので、客観的に見てもモノローグがとっても上手だったし、作品の中のモノローグに、普段書き溜めた言葉の中から切り口が面白かったり、実感がこもっているものを転用するので、他の漫画家志望者とは明らかに次元の違うモノローグ力がありました。ある編集部では、「会話やモノローグだけだともう充分プロで通用するレベルなので、絵を練習してください。で、デビューを目指しましょう」と言ってもらいました。その生徒さんは残念ながらその後、途中で漫画を描くこと自体を止めてしまいましたが、そういう人と違う部分で練習を重ね、1つのスキルがプロでも充分通用するレベルに達していると、編集者さんたちは可能性を感じてくれるのです。
これを読んで納得していただけた方は、ぜひ会話文の練習やモノローグの練習をしてみてください。きっと、良い結果が出ると思います。
会話文は、あるシチュエーション(例えば、足をくじいたキャラクターAをキャラクターBがおんぶして歩くところなど)を決めて、シチュエーションコントのようなものを作ると良いと思います。

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