意図通りに読んでもらうこと
32ページの短編漫画はだいたい200コマぐらいのコマで割った絵とセリフ・モノローグで構成されています。32ページだとそんなに重層的な構造は作れませんから、基本的には主人公の感情線を描くことで物語を構成していきます。さて、みなさんの原稿は、初見の読者が見た時に「あれ? これはどういうこと?」、「やー、こんな主人公ありえないでしょ」と思われずに、きちんとした感情線が引けているでしょうか? 1ページの1コマめから32ページの最後のコマまでが、一連の流れでスムーズに構成出来ているでしょうか? 読者の声を聴き、自分の意図通りに原稿を読んでもらうというのは、突き詰めると主人公の感情線を自分の意図通りに読者に読んでもらうということです。山場で、主人公が大ゴマでボロッと涙をこぼすシーンで、読者にも一緒に涙をこぼしてもらうことです(もちろん、短編漫画でそれほどまでに読者にシンクロしてもらうのはかなりの難易度ですが)。技術的にそれが出来て、初めて編集者はみなさんの原稿を「商品」として見てくれるでしょう。それが出来て、初めてみなさんの声が読者に伝わるし、読者と原稿用紙を使ってコミュニケーションが図れるのです。
現代の読者は何が見たいのか、何を言って欲しいのかでは、現代の読者は何が見たいのか。何を行って欲しいのか。です。先ほど触れましたが、この2015年に日本に生きる人たちは、基本的に毎日の生活や将来に対して漠然とした不安を抱いています。なので、そこの部分に着目するならば、読者を上手に励ます。読者に上手に夢を与えられる作者は、読者のニーズに応えられているのではないかと思います。 例えば、このコラムもそうです。これで3回めのコラムですが、私は意図的に、ところどころで読者であるみなさんを励まそうとしています。何故ならば、私はもう12年間漫画家志望者のみなさんと一緒に漫画を作っていて、経験則でみなさんが「こういう部分で不安を持つんだよな」とか、「ここの部分で励ますとやる気になってくれるんだよな」ということを知っているからです。このコラムがどれほどの方に、どのように読んでいただけるのかはわかりませんが、少なくとも私はコラムを書くに辺り、また書きながら、そういうことを計算しながら書いています。 もう1つ、現代の読者の大きな関心事は、「コミュニケーション」です。私が学生の頃は、まだポケットベルも持っていなかったので、人間間のコミュニケーションはリアル社会のみでした。思えば思春期の間中、ウォークマンで音楽を聴きながら妄想ばかりしていた気がします。しかし、現代の読者はほぼ全員がスマートフォンを持ち、LINEではメッセージを読むと既読が付き、ツイッターやフェイスブックでは現実社会ではないコミュニティがあり、そこで色々な人とコミュニケーションを図らなくてはなりません。フェイスブックなどは、基本的に自慢大会なので、多くの人は自分は他人に比べて楽しい生活が出来ていないのではないか? 自分は他人と比べてコミュニケーションが上手に図れていないのではないか? という漠然とした不安をいだきます。そこの部分を上手にすくい取り、読者が感情移入できるコミュニケーションにまつわる話を描くと、「子供はわかってあげない」のような今風の、今の日本人の気分を代弁するような作品が描けるのではないかと思います。