COLUMN

18歳からの漫画の描き方

vol.09

2次元で伝えるということ

こんにちは。田中裕久です。みなさんはお元気に漫画制作や生活についての色々をがんばっていますか? 私の方は、授業をしたり、生徒さんと漫画の企画について考えたり、自分のプロットを書く日々です。このコラムは基本的に木曜日に書いているのですが、今週読んだ中では「落語心中」が一番面白かったです。作者の雲田はるこさんは、キャラクターそれぞれの感情線を追いながら、主人公が落語家として成長して行く姿をとても繊細に描きます。出色の出来だと思いました。続巻が楽しみです。

さて、今回は「人にものを伝える」とはどういうことかについて一緒に考えたいのです。みなさんの多くは、プロの漫画家になりたい方々だと思うのですが、プロの漫画家というのは、お話やキャラクターを作り、漫画の原稿用紙を通して読者に何かしらのメッセージを伝えたり、コミュニケーションを図るお仕事と言えます。
この「原稿用紙を使って」というのがミソで、私たちは、いくら3次元での会話が上手でも、2次元の画面の中で読者と対話したり、圧倒的な何かを伝えなくては面白いとは言ってもらえないのです。

これは逆のことも言えます。私たちは3次元での会話がどんなに下手でも、2次元の画面の中で読者にしっかりものが伝えられれば、全国の多くの読者の感情を大きく揺さぶることが出来るのです。
以前、高橋留美子さんが何かのイベントでお笑い芸人の方々と舞台に立った映像を観たのですが、高橋留美子さんはお笑い芸人の方々に囲まれてあまり目立っていませんでした。これは、お笑い芸人の方々は3次元、リアルの世界で視聴者にメッセージを伝えるのが本業であるのに対して、漫画家さんは原稿用紙を使い、2次元でメッセージを伝えるのが本業であるからだと理解しました。
漫画家さんの3次元でのコミュニケ―ションは、担当さんと最低限の意志の疎通が図れればOKで、それ以外は2次元の原稿用紙に自分の情熱やエネルギーを落とし込むことが大事です。

自分の言いたいことを言うだけでは読者とのコミュニケーションは図れない

では、私たちが漫画原稿用紙を使ってどうやって読者とコミュニケーションを図って行けばよいかという話です。
漫画家志望者の方の原稿を読んでいてとても多いケースは、作者が伝えたいことはとっても一生懸命伝えようとしているけれど、それを読む読者のことを忘れてしまっているので、とても独りよがりな原稿になっているということです。
これも3次元を例に考えてみるとわかりやすいのですが、私たちは時々、日常生活でとても独りよがりな人に出会いませんか? 自分の話しかしない人。話している自分に酔っていて、聴いているこちらがどういう反応をしているかを忘れてしまっているような人。話が長くて、こちらが心の中で「早く話を止めてくれないかな」と思う人。グループの中で、周りの空気を読まずに1人だけずっとはしゃいでいる人。
こういう人は大抵の場合、周りが見えておらず、自分の話を聴いているこちらがどういう風に思うかということについて意識がない場合が多い。

実は漫画原稿も同じで、プロの漫画家さんが何故読者を感動させられるか、面白がらせることが出来るかというと、プロの漫画家は常に読者を意識していて、今このコマで主人公にこういうセリフを言わせると読者がどう思うか、どういう反応をするか。じゃあ、その反応をしてもらった後にこういうエピソードを入れると更に読者がどう反応するかについてほとんど全て計算で作っているからです。

一方我々漫画家志望者はそういう意識がないので、この原稿を読者がどう見るか、どう思うか(客観的演出)を忘れ、自分が伝えたいことを一方的に伝える(主観的演出)原稿になってしまいがちです。
なので、原稿用紙を使って読者とのコミュニケーションが図れない場合がとても多いのです。

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