欲張らない、人と比べない
作品を描く時に、あれをやりたい、これもやりたい、せっかくだから色々な要素を取り入れて、超スペクタクルな漫画にしたい、という気持ちはわかります。が、それをすると作品の空中分解の確率が跳ね上がるので、作品の狙いは1つか2つにしましょう。例えば、「今回はとにかくヒロインを可愛くかくぞ」とか、「前回編集者さんに主人公に共感できないと言われたから、とにかく読者に感情移入してもらえる主人公にしよう」とか、そういうのを1つか2つ。僕が、みなさんに3年で18本の作品を描いて欲しいのは、この理由が強いです。年間1本しか描かない人は、やはりその1本で結果を出したいですから、あれもこれも、色々な要素を入れてホームランを狙わざるを得なくなります。が、年間6本描いている人は、ホームランは色々なタイミングが重なった時に打つとして、まずは確実に計算できる面白さが1個から2個入っている漫画が作れます。騙されたと思って、そういう狙いで編集部に持ち込んでみてください。編集者さんは「お、もう出来ましたか。今回はヒロインがかわいいですね」と、こちらの狙いをくみ取ってくれるはずです。
人と比べない先ほど、友だちがみなさんの作品を井上雄彦さんの作品と比べて面白くないと言うでしょうと言いましたが、そんなのは当たり前の話です。これまで商業の第一線で何十年も修羅の道を歩んで来た大御所漫画家さんに比べて、みなさんの作品がどこか拙い、技術が追い付いていない作品になる事は当たり前の事です。みなさんがプロになったら、それでも井上雄彦さんのコミックスじゃなく、自分のコミックスを買ってもらう戦略を練らなければなりませんが、まだ漫画家志望者、それも初心者のうちはそんなことを考える必要はありません。漫画仲間の作品とも比べない。隣りの芝生は青く見えるものです。きっと、器用なセンスのある友達は、みなさんの漫画に比べてキャラクターに華があったり、会話や小ネタが面白かったりするでしょう。それはとても大事なことなので、いつかどこかで身に付けなければなりませんが、まずは、描く。描いて、完成させて、持ち込みに行き、編集者さんに叩かれる。『荒木飛呂彦の漫画術』(荒木 飛呂彦 著/集英社)に書いてありますが、あの荒木先生だってこういう修業時代を2年間続けたそうです。もちろん、プロの漫画家さんの優れた技術を真似したり、模倣したりするのはとても大切ですが、漫画制作は長距離走ですから、自分のペースを崩さないこともとっても大切です。